今回は、IHK(イノベーションハブ京都)のパートナーである(社)LINK-J(理事長:慶應義塾大学大学院医学研究科 委員長・岡野栄之)との初めての共催です。LINK-Jは、医学をはじめ、理学や工学、ICTや人工知能といった新たなテクロノジーなど、分野を超えた内外の人的交流・技術交流を促進し、ライフサイエンス分野におけるシーズやアイデアの事業化支援を目的に設立された団体です。ライフサイエンス分野をご専門とする弁理士の先生方をお招きし、研究成果の事業化において重要である特許戦略についてご講演いただく共に、知財戦略を実践しておられるベンチャー企業の代表取締役社長から実例をお話していただきました。

(社)LINK-J参事の宮崎尚様より(社)LINK-Jのご紹介、「医学領域」産学連携推進機構の山口より弊所イノベーションハブ京都のご紹介から始まり、最初のご講演は、正林国際特許商標事務所の杉浦伸夫先生(取締役)、松田隆子先生(弁理士)より「ライフサイエンス分野における「IPランドスケープ」に基づく特許分析の実践事例」です。「特許公報には何が書いてあるか」、「なぜ特許情報が有用か」といった基本的な内容から始まり、IPランドスケープを「知財情報を軸として事業情報、市場動向、財務、その他の非知財情報を総合的に加味しながら、対象企業の現在置かれている位置付けとその将来の可能性を見極め(未来を提言し)、経営に役立てるもの」と定義し、従来の特許調査との違いについてご説明いただくと共に、がん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬、CAR-T細胞)を事例としてIPランドスケープ手法についてご説明いただきました。ベンチャーは、IPランドスケープを活用することで、自社技術の強みを的確に把握し、売却先の選定を含めたEXITまでの道筋を立てやすくなります。

続いて、辻丸国際特許事務所の辻丸光一郎先生(所長・弁理士)、南野研人先生(弁理士)からはタイトル「ライフサイエンス分野における特許のポイント~ビジネス的視点から研究者に知っておいて欲しいこと~」でご講演いただきました。再生医療を始めとするライフサイエンス分野は、アカデミックな発見が、直ちに医療等で実用化・ビジネス化するケースが少なくなく、ビジネス化する上で特許は必須です。またライフサイエンス分野における特許は、機械・電気等の分野とは異なるプラクティスがあり、これを踏まえた特許戦略を構築することがビジネスの成否を分けるといっても過言ではありません。最初に「医療分野において何が特許になるのか」など特許の基本をお話いただき、PCR法に関する栄研化学(LAMP法)と理化学研究所(Smart Amp法)の特許訴訟やゲノム編集技術であるCRISPR-Cas9を事例に、権利化においては基本技術を概念化(抽象化)して広く特許を取る、事業化の前に他社特許を確認する、資金調達における知財の重要性など、ビジネス的視点から、研究者に知っておいて欲しい特許のポイントを解説していただきました。

最後は、Repertoire Genesis(株)代表取締役社長の鈴木隆二様です。同社は、非バイアス遺伝子増幅技術と独自に開発した専用バイオインフォティクスソフト(Repertoire Genesis)を備えた次世代TCR/BCRレパトア解析技術を開発しました。この技術は、従来の技術に比べ定量性に優れ、悪性リンパ腫や白血病細胞の検出、抗原特異的TCR/BCRの同定、免疫チェックポイント阻害剤やがん免疫療法の有効性評価などの幅広い用途に利用することができます。研究成果を基に創業し、シリーズCを調達するまでに成長する過程で得た知財についてのお考えをご講演いただきました。「現在の事業に関わる特許はもちろん重要だが、ベンチャーはそれにしがみつくだけではダメで、将来の事業展開を見据え、そこで必要になる第2、第3の特許も取得していかなければならない」「弁理士は、企業の立場に立って、企業の意図を汲み取り、明細書を作り上げなければならない」

次回6/6(水)の第9回IHK交流会は(社)日本医工ものづくりコモンズ専務理事の柏野聡彦先生をお招きし、臨床ニーズ起点の医工連携についてご講演いただくと共に、医工連携を実践しておられる企業2社から医工連携成功のポイントについてお話いただきます。医療機器開発、医工連携にご関心のある研究者、学生、また企業の方々など、奮ってご参加ください。オープンイベントですので、どなたでもご参加いただけます。

第9回IHK交流会

https://www.ihk.med.kyoto-u.ac.jp/news/?p=399

 

【講演者ご経歴】

杉浦 伸夫 正林国際特許商標事務所 取締役

1978年、名古屋大学工学部研究科化学工学専攻修了。1978~2004年 豊田自動車知的財産部(室長)、欧州トヨタ(VP)車両技術。2004~2007年 上野薬品取締役知的財産部(部長)、食品本部(本部長代理)。2007年~現在、正林国際特許商標事務所。契約、ライセンスを含めたコンサルを得意とし、特許調査・解析部門を立ち上げて(20名)現在に至る。

 

辻丸 光一郎 辻丸国際特許事務所 所長・弁理士

1963年生。企業勤務を経て、1999年に弁理士登録。辻丸国際特許事務所を開設し、バイオ・化学をはじめ幅広い分野で、特許出願、訴訟、交渉を多数受任してきた。また、これらの知見に基づく知財事業戦略を得意とし、多様な規模・ステージに応じたコンサルを行うほか、セミナー、知財評価、ベンチャー経営等にも携わっている。

南野研人 辻丸国際特許事務所 弁理士

1983年生。京都大学大学院生命科学研究科博士課程を修了し、辻丸国際特許事務所に入所。2014年に弁理士登録。国内外の企業や研究機関の特許出願に幅広く携わっている。バイオ分野を得意とし、2016年より日本弁理士会バイオ・ライフサイエンス委員会に所属している。

 

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