第84回イノベーションハブ京都 交流会

循環器内科

診療科紹介 臨床ニーズ発表

日時:2024年9月24日(火)18:00-19:00

会場:ハイブリッド(事前登録制)

対象:オープン(学内外の学生、研究者、企業の方など)

内容:

0.はじめに

【司会】循環器内科 iACT 助教 山本絵里香

本日のセミナーは京大から企業へ診療科の紹介と開発ニーズを発表することで、共同研究を行うパートナー企業とのマッチングが目的である。また、iACTとKUMBLが事務局を務める京都大学拠点のMeBKY (Medical Device Base KYOTO)の医療機器開発支援体制とその取り組みについて情報共有した。更に、次回のIHK交流会 脳神経外科セミナーの開催について告知した。

1.心不全パンデミックの克服

  ~次世代医療機器開発~

【講演者】循環器内科 教授 尾野亘

<概要>

心不全は心血管疾患や腎臓疾患など様々な病態の連鎖の結果として生じ、世界の心不全患者は6000万人を超え、癌患者数の3.5倍であり、パンデミックと呼んでも過言ではない状態。心不全は30日以内の再入院率が24%, 1年以内の再入院率が60%、また5生率が50%を下回る予後不良の疾患である。

Kyoto University Substance121はVCP(バロシン含有タンパク質)のもつATPaseを抑制し、様々な細胞の細胞死を抑制する作用があることが知られている。我々は、マウス・イヌモデルで心不全改善効果を確認した。現在AMED難治性疾患実用化研究事業に採択され、臨床応用に向けて研究を進めている。

本日は教室から、「心不全を測る!」と題して長央先生から心不全患者の右心房圧を低侵襲に測定する開発内容について紹介頂く。また「心不全を斬る!」と題し、渡邉先生からiPS由来の心筋細胞を心筋に生着するカテーテルの開発について紹介頂く。

2.心不全を測る!

【講演者】助教 長央和也

<概要>

本邦の心不全新規発症数は年々増加し2030年には35万人に達すると見られている。また心不全入院患者の退院後1年のイベント発生率は30%と非常に高値である。心不全とは、心機能の低下などにより,うっ血が起こった状態で、息切れや、むくみ、運動耐容能が低下する症候群で、心不全の評価にはうっ血の評価が必須である。うっ血の正確な評価にはスワンガンツカテを用いることが出来るが侵襲的な検査ゆえルーチンの実施は推奨されていない。通常は身体所見、血液検査、レントゲン、エコーなどで間接的に診断するが、不正確で熟練を要するという課題がある。ベッドサイドで、誰でも、簡便に、正確にうっ血を評価する方法の確立が望まれる。

パイロット研究で心不全患者の末梢静脈圧と右心房圧の相関を調査すると、相関係数0.8で極めて良好な相関が得られた。しかし、計測には装置が大型で専門施設以外では困難である。もっと簡便で正確に、無侵襲で測定する方法が無いだろうか、と日々研究している。

3.心不全を斬る!

【講演者】助教 渡邉真

<概要>

心血管橋渡し研究グループでは、①医療機器開発、②中大型動物を用いた全臨床試験、③薬事承認前後の臨床研究サポート、④社会実装相談、を行っている。具体的な医療機器開発では、今日紹介する心筋内注入カテーテルの他に、UWBレーダバイタルモニタリング、新規心音図検査装置の臨床研究を行っている。

日本の医療機器は診断機器に偏っているが、治療機器は市場も大きく成長率も高い。その為、日系の医療機器メーカは売上ランキングが低く、治療系を伸ばすエコシステムを作ることが求められる。我々は、ニーズに基づく医療開発をバイオデザインのプロセスを踏まえて進めている。

心不全はポンプ失調で、心臓の血液拍出が不十分で、増悪を繰り返すと予後が悪くなる。急性心筋梗塞を患うと心筋が細胞死して、繰り返す度に心筋細胞が減少する。心筋細胞を増やす治療は最終段階の難治性心不全になってから行われるが、極めてコストが高い。サルを用いた開胸手術によるiPS細胞由来の心筋注入実験をでは、細胞生着と心機能回復が確認されている。カテーテルによる心筋細胞注入は、低侵襲でありコストも低く抑えられるが、生着率が悪いという課題がある。この課題解決を目指し企業と新規カテーテルの開発に取り組んでいる。特殊な形状の針カテーテルと可動性ガイディングカテーテルを融合し、3Dマッピングイメージングで心筋に注入する非臨床試験を実施し、企業と共同で特許も出願した。期待される市場規模は国内1500億円、海外12兆円と見込まれ、是が非でも成功させたい。

イノベーションのジレンマの著者として著名な、ハーバード大学のクレイトン・クリステンセン先生の言葉に、「革命的企業のリーダーに共通するスキルは、一見関係なさそうな事柄を結びつける思考。」があり、ご参考にされたい。

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